HISTORY of ORIGINAL ALBUM

5th ALBUM
LIFE is…
2003.01.22 Release
 そのとき、すでに約5年のキャリアがあったわけだけれど、多くの人にとっての平井堅とは、突如出現したスタイル抜群の長身ドレッド・ヘアのシンガーであった。加えて、卓越した歌唱力と、当時の日本の音楽シーンにおいて本格的なR&Bを男性シンガーが歌うことの真新しさもあって、2000年発表のシングル「楽園」でのブレイクはいま思い返しても相当なインパクトがあった。さらに強烈なのは、たとえば2005年のシングル「POP STAR」のヒットをはじめ、「楽園」以降もターニングポイントが幾度も訪れていたことで、これが平井堅のキャリアの特異性であり豊かさでもあったりするのだけれど、2003年発表のアルバム『LIFE is...』もまさにそれ。もっというと、平井堅の存在が巨大化していくきっかけになった、極めて重要な作品でもある。

 このアルバムには、ベイビーフェイスとのコラボレーションとなるR&Bのバラード「Missin’ you ~It will break my heart~」、アッパーなファンク・チューンの「Strawberry Sex」、アメリカのポピュラー・ソングの日本語カバー「大きな古時計」、J-POPのシングルとしては異色ともいうべきシリアスかつダークなトーンの「Ring」と、2002年にリリースした4枚のシングル曲が収録されている。4曲それぞれがまったく別の表情を持っていることからもわかるように、この頃から平井堅は多種多様な作品を手がけるようになっていて、ほかにもジャズにアプローチした「世界で一番君が好き?」や、変則的なビートに乗って二日酔いの状態をコミカルに歌ったエレクトロな「I’m so drunk」など、ひょっとしたら、平井堅を聴くきっかけがR&Bシンガーとしての平井堅だったファンやリスナーの中には、奇妙さを感じる人がいたかもしれない。でもそれは当然のことで、『LIFE is...』は過渡期のアルバムなのである。このことは、2004年に発表されるネクストの『SENTIMENTALovers』がよりポップ路線になった事実を踏まえれば明白で、しかし過渡期とはいえ、たしかなものもある。人生における困難さと儚さと美しさを生々しく綴ったアルバムのタイトル曲「LIFE is...」の歌詞からは、平井堅のソングライターとしての進化と深化を伺い知ることができる。“いくつもの愛のことばが生まれては消える”はなんともせつない、名フレーズである。

 しかしなんといっても『LIFE is...』というアルバムのパワーは、アルバムのラストを飾る「大きな古時計」に依るところが大きい。シングルの発表当時は誰もが知るクラシックだけに、肯定的な批評や受け止め方だけでなく、R&Bシンガーが取り上げる歌なのかという懐疑的な捉え方もされた。なぜカバーなのかという声もあった。でも、だからというべきか、大きな話題を集めることになったし、幅広い世代からの支持を集めることにもなったし、それが新しいリスナーやファンの獲得に繋がり、「大きな古時計」は平井堅にとって初めてチャート1位を獲得する曲となった。これは「楽園」以上のインパクトだったといえるし、あまりに大きな、そして決定的なターニングポイントになったともいえる。また、2002年の大晦日には「第53回NHK紅白歌合戦」に出場。歌のモデルになったといわれる古時計のあるアメリカはマサチューセッツ州グランビーの民家から熱唱する姿が生中継され、そのパフォーマンスは翌月リリースのアルバム『LIFE is...』が大ヒットする原動力にもなった。

 以降、平井堅のライブ、ツアーの規模はどんどんとスケールアップし、CDセールスはさらなる驚異的数字を記録。R&Bシンガーとしてシーン最前線に躍り出た平井堅はポップ・シンガーとなり、やがてポップ・スターへと昇華することになる。
Text by 島田諭