HISTORY of ORIGINAL ALBUM

6th ALBUM
SENTIMENTALovers
2004.11.24 Release
 「思いがかさなるその前に…」「瞳をとじて」「style」「キミはともだち」の4作のシングルを収録した、2004年リリース・6作目のアルバム。

 松尾潔プロデューサーの指揮の下、サウンドをR&B方向に全振りし、外部の作曲家を大幅に導入し、起死回生の大ヒットとなったサード・アルバム『THE CHANGING SAME』以降、英米の最新のダンス・ミュージックを導入しながら、平井堅は作品を作ってきた (例:「KISS OF LIFE」のバック・トラックは2 STEP、「Missin’you〜It will break my heart〜」はアメリカの大物アーティスト/プロデューサーであるBabyfaceにプロデュースを依頼)。
という時期を経て、そこで身につけたスキルやセンスを持った状態で、素の自分──つまり『THE CHANGING SAME』以前の自分に戻ったのが、『SENTIMENTALovers』である。という位置付けの作品だと、リリース当時に思ったし、今聴き直しても、それは変わらない。
作品の骨子がなんなのかがわかるくらい、ストレートなアルバムタイトルが冠せられていること。作詞は全曲が自身、作曲は半分が自身で半分が外部のプロデューサーや作曲家に依頼していること。『THE CHANGING SAME』以降のアルバムの中で、もっともタイトルが日本語の楽曲が多いこと、などが、それを表していると思う。

 「思いがかさなるその前に…」と「瞳をとじて」、大ヒットした先行シングルの2曲は、亀田誠治がプロデュースしている。いずれもストリングスやピアノが中心となった、叙情的な美しいアレンジが施されているが、それらが、SOULHEADのYOSHIKAが作曲し、そのプロデュース・チームであるOCTOPPUSYがアレンジした「jealousy」や、同じくOCTOPPUSYが南ヤスヒロの曲を編曲した「style」や、FILUR編曲の「signal」のような、当時の最先端のダンス・トラック曲と、ごく自然に並んでいる。

 田中直が手掛けたファンク・チューン「青春デイズ」も、童謡のような原曲を松浦晃久がドゥーワップに生まれ変わらせた「キミはともだち」も、同じく、アルバムに広い幅を与えつつも、違和感なく魅力を発揮している。 つまり、平井堅が、本当の意味で、何をやっても大丈夫になった時期が、この頃なのだと思う。コンセプトや、戦略や、統一感などを考えなくても、自分が組みたいアレンジャーやプロデューサーやトラックメイカーと組んで、自分がすばらしいと思えるものを1曲1曲作っていくのが最良であるし、今の自分がやりたいことだし、やるべきことだ、という結論に達したのだ、と思う。

 先に、「『THE CHANGING SAME』以前の自分に戻った」と書いたが、その頃は、それを無意識に(もしくはスタッフの助言で)やっていたが、そうではなく、意識的に、自らの意志でそうするようになった、それで正解を出せるようになった、ということだ。
前作=松尾潔プロデュースの2作『THE CHANGING SAME』と『gaining through losing』を終えてからの最初のアルバムだった『LIFE is...』から、その作り方になったが、それをよりいっそう推し進めたのが本作だ、と言った方が、より正確かもしれない。

 あと、「Strawberry Sex」や、安室奈美恵とコラボした「グロテスク」のように、言わば「本人のラジカルさが世の中より先へ行きすぎてしまった」、素敵にどうかしている楽曲を、作って発表することが、平井堅には時々あるが、このアルバムでそれにあたるのは「鍵穴」だと思う。それらの曲が特に大好きなもんで、最後に書いておきました。
Text by 兵庫慎司